家庭がクリスチャンホームであったため、
あやめは子どもの頃から教会の日曜学校に通っていた。
今も教会と学校のボランティア活動で、知的・身体的障害のある人
の施設に時々手伝いに行っている。
手伝いといっても、身の回りの世話をするわけではない。
友だちになり、彼らが自分で日常生活のいろいろなことをするのを
見守り励ますのがあやめたちの役目。
体に障害のある人たちは、あやめたちがいとも簡単にやってのける
日常の動作、たとえば部屋を横切るのに20分、パジャマのボタンを
全部かけ終わるのに30分かかったりする。
そこでは時間がゆっくりと過ぎた。
それに関して、あやめには忘れられない記憶がある。
体は大きくて髭さえ生えていても中身は幼い少年だと思っていた
知的障害のある男性が、ある時突然奇声をあげてあやめに抱きつき、
押し倒したのだ。
あやめは恐怖で悲鳴を上げた。
その力は強く、何の前ぶれも心の準備もなかったせいでおかしな
倒れ方をしたあやめは、
危うく彼の下敷きになって骨を折るところだった。
その表情はいつも見ていたあどけなく恥ずかしがり屋の彼ではなく、
焦点の合わない目を血走らせた狼のようだったのだ。
施設のスタッフに取り押さえられ叱られ諭された彼は我に返った
ように、べそをかきつつ謝ったが、
それは幼い子供が大人に言われてそうさせられている、という
感じだった。
そのことがあってから、あやめは施設に行くのをためらうようになって
いる。
たとえどんなに子どものようであっても本能は男性である、
というそのギャップにどう対応したらよいのか戸惑っている。
祐に対しても同じような不安がある。
−女の子を女性をどういう目で見ているのかな…
物語や映画に出てくるような、美しい恋の対象と見ているだろうか。
それとも、本能でかたっぱしからナンパしているのだろうか。
−私は前者であってほしい
自称情報通の友だち沙織によれば祐は、アルバイト先の女上司、
行きつけの化粧品店、喫茶店など、行った先行った先でそこの女の
人と仲良くなり、
気がつけばホテルへ行く関係になっているという。
あの風貌と雰囲気だから、きっと女性の方から誘うのだろうが、
その相手が特定の彼女になるということはないそうだ。
あやめには、初めて出会った時も、そして悪い噂を聞いたあとも、
祐は白馬に乗った王子様のイメージのままで。
ポルノ雑誌や映画の中で、そういういやらしいことをしている大人の
男性とは、どうしても合致しないのだった。
あやめは小さい頃、たまたま迷い込んだトラックの運転手さんの仮眠
室で、その種の雑誌を見つけたことがある。
成人映画のポスターやちらしを見たこともある。
あやめ自身そんな時、自分でもわけのわからないような、自分が自分
でないような、まるで体の中心がうずうずするような不思議な感覚を
覚えはしたけれど、
それが何なのかその時は全くわからなかった。
その頃はまだ、
赤ちゃんはコウノトリが運んでくるものと信じていたから。
−でも、でも…
私の受け入れられる範囲では、白雪姫の王子様のキスも、
ほっぺか唇への軽いもの。
むさぼるようなディープキスなんて想像できない。
幻滅だよー!!
純情でおしとやかなはずのお姫様も、
ハッピーエンドのあと、ステキな王子様の前で脚を開いたりして、
ポルノ雑誌のような、 あんなかっこうをするの…?
髪を振り乱して、呻き声を上げて、体をよじるの?!
やだよー! 信じられないよ〜…
私は、そんなお姫様は絶対ヤダよー!! (*´д`;)…
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