数日後、どこでどうやって調べたのか、祐から電話がかかってきた。
「あやめさん? 今度、家に遊びに行っていい?」
「えーっ!! と、とんでもない! 家の人に殺されます!」
祐のことだ。
家族がいようといまいと、涼しい顔して堂々と訪ねて来そうである。
その上、母親までがぽーっとしてしまうかもしれないくらいだから、
事がややこしい。
「じゃあ、喫茶店でお茶でも…」
「お茶って…。 男の人と喫茶店とかに入るの、禁止されてるし…」
「じゃあ、どこならいいの?」
「えーと…」
「日曜日は何してるの?」
「午前中は教会に行きます。」
「わかった。なら、俺も教会に行くわ。 緑ヶ丘んとこだろ?
じゃ、日曜日にね!」
…ガチャン…
−えーっ! 教会に来るの?私に会いに??
その上、ナンパ目的で来るなんて前代未聞…
何も悪いことはしていないのに、罪悪感で心臓が飛び出しそう。
でも、何だろう… このときめき…
こんな強引な男性、今まで見たことも会ったこともない。
あやめの知っている男の子たちといえば、教会で会う堅物やもやし系、
または、たまたま遊びに行った時に見かける、(変に礼儀正しい)友だ
ちのお兄さんくらいのものだった。
あやめを恋愛の対象と見て、気軽に近づく人はいなかった。
−あの人からの電話が家電にかかってきたというだけで、
家族が聞いてやしないかと心臓が飛び出しそうなのに、
教会に押しかけるわけ?
そして、公衆の面前で私に話しかけるの?
何て? どうしよう…
気が動転し、自分ではどうにもならない心臓の高鳴りが加わって、
顔はのぼせて熱いのに、体は冷や汗でびっしょり。
(たーったそれだけのことでー?!)
−どうしよう… どうしよう…!!
教会で彼と会った場面を想像すると息も絶えだえ…という感じになっ
て来た。
この時あやめは初めて知った。
自分の中に、自分ではどうにも止められない突っ走るような思いが
生まれることもあるのだということを。
よく “恋は理屈ではない” とか、“なぜあんな人を好きになるの?”
とかいう例を聞くが、
少しわかるような気がした。
それは自分の中から熱いものが自然に湧きあがってくる感覚で、
理性ではどうにもコントロールできないものだった。
” 『いけない人』 と言われているから、好きになってはい
けない”
そう自分に言い聞かせても、
体が、心が、言うことをきいてくれない。
そうして女は愚かと思われる恋にも身を堕とすのだ…
予感がしてしまった。
−この人の声がそばで聞けるなら、あの瞳で見つめられるなら、
私は人にどう思われてもいい…
たとえ教会の人たちの顰蹙を買っても…
私は、彼がそんな状況の中でも私に会いたくて
会いに来てくれた、そのことに
きっときっと舞い上がる…
そんな自分が、霞の向こうの近い未来空間にぼんやり浮かび上がる。
−だめ! 私は不良の仲間にはならないからね。
あの人と、まじめにつきあう!
まず、いいお友だちになるんだ!
だが、そうでない自分もいる。
−あんな素敵な男性の腕の中にすっぽり、ギューっと抱きしめられる
なら、他のことなんかどうでもよくなるかも…
なあんて…(うっとり) ( ゚д゚)ハッ!
私ったら何考えてるの?!
とんでもない。
ふと頭をよぎった自分らしからぬ思考あれこれを振り払い、まだバクバ
クしている心臓をなだめながら大きな深呼吸をして、
あやめは日常場面に戻ったのだったが。
表面とはうらはらに、心臓はいつまでも高速操業をキープしているのだ
った。
テーマ : 恋愛・出会い - ジャンル : 恋愛