「うまい、うまい、」 と祐があやめの手料理に舌鼓を打つ。
夕飯を食べた後、ふたりは銭湯に行くことにした。
あれ、いつの間にかやっぱ泊まることに
なっちゃったんだ?
祐の家も真の家も裕福ではあったが、そこは甘やかさず、息子たちを
高級マンションに住まわせることはせずに下町の学生アパートをあて
がった。
まあ、他の予備校生たちと同じような環境に置くことで、受験生である
という自覚をより強く持たせるという考えもあってのことだろう。
予備校にやるのもアパートを借りるのも、はたまた晴れてどこそこかの
大学に合格しても、莫大な出費が伴う。
ここは息子たちに本腰を入れて勉強に取組んでもらわなければ困る。
祐と真を同じアパートに住まわせたというのも、双方の両親の思惑か
らだ。
知った者同士、同じ目標を持つ者同士でアパートをシェアさせれば、
お互いの息子たちをある程度監視することができる。
大きくハメをはずすこともないだろう、という算段だ。
女を連れ込むことはできないだろうし、病気をすれば助け合うこともで
きるだろう。
そのアパートの間取りは2DKだったが、部屋のしきりは取り外されて
いた。
また、住人用に共同の浴室はあるが味気ないので、祐は銭湯通いを
ひとつの楽しみとして日課のようにしているのだという。
祐と寄り添って銭湯へ行ったことは、あやめにとってもうひとつ、心く
すぐられる思い出となった。
母が持っていたナツメロフォークCDコレクションにある “神田川” の
歌そのものだったのだ。
銭湯から帰り、いっしょにテレビを見ながら、
うつむいたまま一点を見つめていたあやめの目から、涙がポロポロ
零れ落ちた。
祐は、”永遠に君を愛す” とか、”好きなのは君だけだ” とかは絶対
に言ってくれない。
だから、
”今この瞬間の幸せが、いつまで続くんだろう…” という儚さに。
「何? どうしたの? 何かあったの?」
何かあったのかと聞かれたら、そりゃ、いっぱいあった。
祐とつき合っていたことが原因で家を追い出されることにまでなり、今
は下宿していること。
銀平と真にされたこと…。
だがあやめは、マイナスなことは言わなかった。
今この瞬間のあやめの人生の輝きを、そのままにしておきたかった
から。
「うん。 今があんまり幸せで…。」
それだけ言った。
祐が愛しそうに、あやめの体を抱き寄せる。
「せっかく真が気を利かせてくれたんだから。」
電気が消され、あやめはベッドへ導かれる。
「祐さん、お願い。今日はいっしょに眠るだけにして。」
「え? 何だよ、それ。
まだそんないい子ちゃんみたいなこと言ってるの?」
「…だって… 妹なんでしょ? 私…」
兄と妹のような感覚でつき合おうと言われたことに、あやめはどこか
でこだわっていた。
−妹なんて言うんだったら、なぜセックスしたの?
私、そのために家を追い出されるほど叱られて、祐さんのお母さん
にあんなことまで言われたんだよ…
私の方は、痛いだけで何のいいこともなかったのに…
セックスなんて、恥ずかしくて痛いだけで、まわりの人にいろんなこと
言われて…されて… 何のいいこともない。
「”妹みたいだ” ってだけだよ。
あやめとはセックスしても、全然いやらしくないんだもの。
(セックスは、いやらしいから面白いんじゃないか! ←本心)
だけど、妹じゃないだろ。
あやめは色気はまだないけど、女は女さ。
色気もそのうち自然に出てくるよ。」
−まるで、まだ色気がないことが欠陥みたいに思えてくる…
「でも…
”妹のようにつき合おう” とか、”他にもっといい奴見つけた方がいい”
とか…」
「ああ、あの手紙かぁ。
俺は、今はあやめとつき合ってるけど、俺よりもっといい奴が出て来
たら、俺はあやめのためにいつでも身を引くってことさ。
あやめ、まだ17だろ?
初めての男としかつき合わない人生なんて、面白くも何ともないだろ
が?」
(処女をもらったからって、
そのために縛られるんじゃ、たまんねーよ! ←本心)
「でも、もっといい人が出て来るまでは、彼女のままでいいの?」
「いいさ。 でも俺も同じように、あやめには縛られないよ。
それでもいい?」
あやめには、祐の言っていることがイマイチよくわからない。
−ふつう、“つき合う” ってことは、
”相手を独占するかわりに自分も他の人には目を向けない”
って約束することじゃないの? …
さて、同じベッドに寝て、祐があやめに手を出さずにいられるのか…。
こんな私だったらいいわけ?

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