第一章Aまで 後編11話 読むのにかかる時間:20分前後「あやめちゃん、こっちこっち」
銀ちゃんと呼ばれる男の子の家。
一階は自宅と小さな鉄工所になっていて、二階に何部屋かあり、
そこが従業員の休憩所と、中学生・高校生の子どもたちの部屋に
なっていた。
こたつ台でできたマージャンコーナーは
その二階の広い休憩室の片隅に。
女の子たちはマージャンには興味ないからと帰ってしまい、
あやめだけ、祐、真、そしてこの家の住人である銀平について来た
のだった。
紅一点!!
こんな、
他の同年代の子たちにとってみればなんでもないような行動だが、
あやめにとったらここんとこ ”大冒険” 続きだ。
−こんなに楽しくて幸せだったことが、今まであったっけ…
遠足、お誕生日、クリスマス、お正月…
あれこれ思い出すが、
本当にこれほど心から嬉しいとか感動したとか実感したことがあった?
いつもまわりの大人にたち当たり前のように習慣的に与えられていた
だけのような、自分の顔があまり見えない思い出だったような気がし
てくる。
3人の男の子たちはあやめに、ていねいにマージャンを教えてくれた。
何よりワクワクしたことは、
祐が隣に座っていっしょにあやめの手の内を見ながら
「今度はこれ捨てて」「これとこれは取っとくんだよ」
などとその度に指南してくれること。
そして、祐のマージャンの腕前… 強い!
あやめはすっかり見惚れてしまった。
−ちゃらんぽらんでいい加減のように見えるけど、
祐さんて、きっと頭はいいんだ。インテリなんだ。(わーい!!)
実は学校をさぼり、さんざんこれで遊んだ、というだけの
ことかもしれないのだが、あばたもえくぼとはありがたい
もので、まことにおめでたいことである
銀平の母親が、スナック菓子と飲み物を持ってきてくれた。
彼女はあやめを見て、感嘆したように、
「あれー、また、どーしたの。
こんなむさ苦しいところにこんなお嬢さんがいるなんて!!
ほんとに掃き溜めにお姫様じゃない?!」
「おふくろ! 掃き溜めはないっしょ。
自分が住んでる家じゃんか!」 と銀平。
「だってほんとだもん。
機械の油臭いわ、男の汗の臭いはするわで、私もよくこんな家に嫁に
来たもんだって、自分で感心してるよ。
”恋は盲目”とはよく言ったもんで、、
今はあんな父ちゃんだけど若い時はそこそこいい男に見えちゃったん
だよねー!
他のことは目に入らずについ、騙されちまった。」
「母ちゃん、そういうのを ”割れ鍋に綴じ蓋”とか、”たで食う虫も好き
ずき” って言うんじゃないの?」
「失礼な子だね!
親に向かって何てこと言うんだい!」
あやめから笑顔がこぼれる。
「だけどね、お嬢ちゃん、ほんと、若いとかカッコいいからってだけで
騙されちゃだめだからね。
自分を大切にしなさいよ。」
いわくありげなそんなセリフを残し、人生の先輩はウインクをひとつし
て階段を下りて行った。
マージャンのパイと睨めっこしながら、何だか、し〜ん と静まる。
そこで、
「あやめちゃんって笑顔が可愛いね!
いつもそうして笑ってなよ。
そうすれば男がいっぱい寄って来るよ。
俺もボーイフレンド候補に名乗りをあげちゃおっかなー」
と、銀平。
−結構です。
男なんかいっぱい寄って来なくていい。
世界中の男に見向かれなくったって、
祐さんだけが私の方を見ていてくれればいいんだもん。
なんとなく、なんとなくだが、
あやめは、祐の公認ガールフレンド扱いされているようなムードを
察知していた。
錯覚だろうか。
−そうだったら、覚めたくないよー! この幻想から…
テーマ : 自作恋愛連載小説 - ジャンル : 小説・文学